世界の押し花作家を訪ねて

一般社団法人世界押花芸術協会のホームページが新しくなることに際して、これまでの活動や当時の思い出を振り返ったり、日々感じたことなどを少しずつ紹介していきたいと思います。

私が押し花の世界組織を作ろうと思ったきっかけになったのが、世界の押し花作家を訪ねた旅でした。アメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、台湾、デンマーク、ドイツ、フランス・・・。現代のようにカーナビやスマホもない中、レンタカーを借りて地図を片手に目的地を目指して転々とするという、今思うと大変でしたが楽しかった思い出です。

1995年、アメリカ・オハイオ州のサンディ・パケットを訪ねました。サンディの家は緑に包まれ、庭と家とを裸足で行き来している姿を見ると、庭の植物や虫たち、小鳥などの生き物とがまさに一体化している、自然とともに過ごしているようでした。靴を脱いで家に入る日本人の感覚とはまるで違うと深く感激しました。庭の草花を電話帳に挟んで乾燥させるといい、家の階段には花を挟んだ電話帳がずらりと並んでいたことも印象に残っています。自然の色の変化を楽しむかのような、落ち着いた色がアンティーク調な風合いを醸し出した、とても素敵な作品でした。

サンディの紹介でオハイオ州立大学園芸学科のジャネット・オバリーセン教授に会って親交を深めるうちに、地元の園芸イベント出展してみないかと誘われたのです。当時、まだ私は駆け出したばかり、経済的にも余裕がなく大きな額に入れた作品をいくつも持っていくことができません。そこで押し花と資材のみを持って渡米し、現地で額を調達して大急ぎで作品を完成させ、イベントに展示しました。15平米ほどのわずかなスペースでしたが、色鮮やかな花々を使った私の作品を見た人々からは「本物なの、信じられない!」と驚きの声が上がりました。ワークショップや用意した押し花もとても人気で、「どこで習えるの」「どうしたら買えるの」とリクエストが集まる中、自分がそこでずっと教えてあげることはできない、実際に販売する術もまだないという、自分が一人でできることの限界を感じつつ、「押し花を世界へ広げていくためには、地元で主体的に広めてくれるパートナーが絶対に必要だ」と強く感じ、次への目標が見えたという時期でした。

世界を巡り、出会った押し花作家から受けた刺激を書籍としてまとめ「世界押花デザイン図鑑Vol.1」(1997年)を出版することができました。海外作家の作品とともに、それぞれの人柄を紹介したことからとても好評で、後にVol.2、Vol.3とシリーズ化して出版しました。今では絶版ですが、私の押し花のルーツを語るうえでは欠かすことのできないとても貴重な書籍です。

押し花アーティスト 杉野宣雄